由岐のドンザ


photo 生津勝隆 

 

これほどの美しいものを生み出した人と地域、その営みにこそ未来は開かれるべきだと僕は思った。


 

 

株式会社あわわ より発刊された「めぐる、4」2021.5-6月号に寄稿しました。

Made in Local. vol.4 は「由岐のドンザ」と題し、大正期に作られたであろう衣服を取りあげました。

 


僕がお世話になっている「四国大学 藍の家」には、藍で染められた布製品が数多く所蔵されており、いま、その図録を作るお手伝いをさせていただいています。昨年、大学内のスタジオで写真撮影をすることになって、コレクションの全貌を知ることとなるのだけれど、現代では手に入れることが難しい貴重な手仕事ばかりです。その中に漁師さんの仕事着であったという着物があって「ドンザ」と呼ばれていたことを知りました。

 

当初はこのコレクションの中の一着について取りあげようと考えていたのですが、出処について確証が持てず、一旦保留することにしました。後にこれは庄内地方の農家が使ったものだろうとわかるのですが、創刊号で庚申塔について調べたときに坂本憲一先生とも話したけれど、100年程前のことは本当にわからないものです。

 

その後、ドンザについて調査を続けると、2005年に福岡市博物館で「知られざる海の刺し子展」を開催していたことを知ります。(何というマニアックな展示だろうか、、企画した学芸員さんには心から敬意を表したい)この展示に由岐町教育委員会(現・美波町教育委員会)から徳島のものが貸し出されていたことがわかり「これは何としても見に行かなければ」と、導かれるように由岐へと向かうことになります。ただ、まだこの頃は、阿波船や徳島県南部と九州の繋がりなども十分な理解はなかった。


 

美波町教育委員会に問い合わせたところ、福岡市博物館に貸し出したものが何着かあるとのことで、見せていただくことができた。それらは福岡の展示以外にも貸し出されたこともあったが、それ以降は大切に保管されているようだった。何度も何度も補修され、縫い直された「襤褸」は、当時は生地や衣服が大変貴重なものであったことが伝わり、心を打たれるものばかりでした。

 

写真撮影には申請が必要なので、手続きを確認して引き上げようとすると、「あともう一枚を向こうに飾ってありますから」と教えていただいた。そこはJR由岐駅2Fにある資料展示室だった。ここにはかつて実際に使われていた漁具が多く展示されており、その中に「由岐のドンザ」は静かにあった。教育委員会内に保管されていたものは、実際に作業着として使われていたことが如実に伝わってくるが、この一着だけは使用感がほとんどなく、他のものとは明らかに違う・・・どちらかといえば「晴着」だと感じた。そしてこの精巧な刺子や仕立てはプロの仕事に近いとも。

 

気がつけば、その丁寧に重ねられた仕事から目を離せなくなっていた。

仕上がるまでにいったいどのくらいの年月を費やしただろうか、これは一生のうちに何着もは作ることができない大作だ。とにかくこの尋常じゃない刺子は何だ、現代に再現しようとすることができるか?極めて難易度が高いことは間違いない。


いったいどのような人が作ったのだろうか?

もし柳宗悦がこれを見たらどのように評するのだろう?

 

思いを巡らせるうちに、このドンザを連載で取りあげると心に決めた、いや決まっていたというか、ようやくその流れの中にいることを自覚したというか・・・運命が回り出す音が聞こえていたように思う。

 

寄贈者に「筋野治周」という方の名前があるが、施設の開館から30年以上が経ち、現在の職員の方は、寄贈者と面識もなくその経緯もわからないとのことだった。

 




お店に戻って営業していると、お客様にいただいた写真集のことを思い出した。 その重厚さからなかなか手に取る機会がなかったけれど、何か手がかりがあるかもしれないと開いてみた。

徳島新聞社が1980年に発刊した、この「写真集 徳島100年 」上巻にその写真はあった。





由岐の隣町、日和佐から出漁する船団の写真、目的地は五島とある。

五島って五島列島?長崎?九州??

 

神山生まれの自分には「漁師になる」なんて人生の選択肢はなかったから、海の仕事のことは全くわからない。

ただ、そこには新しい扉が開いたような高揚感があった。

 

その後、信頼できる方の紹介で、徳島県立博物館の学芸員・磯本宏紀さんを尋ねることになります。





由岐港にて。中央に見えるのは、箆野島、「ぬのしま」と読みます。

 

 

 

 


3月初旬、漁師さんに何が獲れるか尋ねると「今は太刀魚だよ」と教えてくれた。

 

 

 

 


由岐駅にて。徳島駅からは970円、今度は汽車で行ってみたい。

 


 

由岐には美しい浜があって、夏は海水浴場になります。

冊子に掲載された生津さんの写真はその「田井の浜」で撮影しました。

子ども会で連れてきてもらったことあるし、高校生の時に友達と泳ぎにきたこともあって、由岐を訪れるのはそれ以来ということに・・・えーと、つまり30年ちょっとぶり?


今は車だと徳島市内から1時間半くらいの距離感です。

 

 

つづく